生命保険料控除で税金対策になる?控除額の計算や手続きの方法を解説

生命保険料を払うと、所得から控除されて税金対策になるの?
控除を受けられる生命保険の種類はどれ?
生命保険における控除の仕組みを理解・活用すれば、所得から一定のルールにのっとって計算した控除額を差し引けて、所得税や住民税の負担を軽減できます。

生命保険の控除をいくら受けられるのか、控除額の計算方法を解説しましょう。

また、生命保険の控除を受けるために必要な手続きについても詳しく紹介していきます。

生命保険における控除とは?

一般に「控除」とは、一定の金額を差し引くことをいいますが、生命保険を契約した場合もこの控除が受けられます。それが「生命保険料控除」という仕組みです。

生命保険料控除とは、支払った生命保険料に応じて、一定の金額が所得から差し引かれる制度です。控除された分だけ課税所得が低く抑えられることで、所得税・住民税の負担が軽減されるのです。

課税所得とは

課税の対象になる所得のことです。例えば会社員であれば年収から「給与所得控除」を差し引き、さらに15種類の「所得控除」の中から対象になるものを差し引いて求めます。「生命保険料控除」は15種類の所得控除の一つです。

所得税や住民税は課税所得に税率を掛けて計算されます。課税所得が低ければ、その分税金の負担が少なくなるというわけです。

生命保険料控除の対象者は生命保険料を支払う人

生命保険料控除の対象となる人は、契約している生命保険の保険料を実際に支払っている人、いわゆる「保険料負担者」をいいます。

契約者や被保険者(=保険の対象となる人)、保険金の受取人だからといって、生命保険料控除の対象になるわけではないので注意が必要です。

例えば、妻が契約者、夫が保険金の受取人となっている生命保険であっても、実際は夫が妻の生命保険の保険料を払っているのであれば、夫が生命保険料控除の対象になります。

このように家族が契約者となっている生命保険の保険料を払っている場合は、生命保険料控除の対象になる可能性があるため、確認しておくといいでしょう。

生命保険料控除には「新制度」と「旧制度」がある

生命保険料控除は、2012(平成24)年1月1日以降に契約した生命保険(以下「新制度」)と、2011(平成23)年12月31日以前に契約した生命保険(以下「旧制度」)とで、その内容が異なります。

2種類の生命保険料控除制度|新制度と旧制度の違い

新制度の主な特徴
・2012(平成24)年1月1日以降に契約
・一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料が控除の対象
・3種類の保険料で控除できる額はそれぞれ所得税4万円・住民税2万8000円が上限

旧制度の主な特徴
・2011(平成23)年12月31日以前に契約
・一般生命保険料、個人年金保険料が控除の対象
・2種類の保険料で控除できる額はそれぞれ所得税5万円・住民税3万5000円が上限

新制度の場合と旧制度の場合とで生命保険料控除はどんな違いがあるのか、詳しく見ていきましょう。

新制度での生命保険料控除の種類と控除額

新制度で生命保険料控除を受けられるのは、2012年1月1日以降に契約した生命保険です。これから新規で契約する生命保険は新制度が適用されます。

新制度の生命保険料控除には「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3種類があります。それぞれどのような生命保険が対象になり、いくらまで控除されるのでしょうか?

一般生命保険料控除:生存または死亡した場合に支払われる保険の保険料に適用

死亡・高度障害状態になったときに保険金が支払われる「定期保険」「終身保険」「養老保険」「学資保険」などの保険料は「一般生命保険料控除」の対象となります。

「保険金の受取人が、保険料を支払う本人またはその配偶者、その他の親族であること」が一般生命保険料控除を受ける上で必要な条件となります。

配偶者や子どもなど遺族の生活のために備える生命保険が該当します。

<新制度:一般生命保険料控除の上限額>

  • 所得税:4万円
  • 住民税:2万8,000円

所得から差し引かれる控除額の上限は所得税と住民税で異なります。

所得税を計算するときには最大で4万円まで、住民税を計算するときには最大で2万8000円まで差し引けます。

介護医療保険料控除:医療・介護保障を確保できる保険の保険料に適用

「医療保険」や「がん保険」など入院・手術のときに給付金が受け取れる保険や、介護が必要なときに給付金が受け取れる「介護保険」の保険料は、「介護医療保険料控除」の対象となります。

一般生命保険料控除と同様に、「保険金の受取人が、保険料を支払う本人またはその配偶者、その他の親族である」ことが介護医療保険料控除を受ける条件となります。

病気やけが、介護に備えられる生命保険で利用できるのが特徴といえます。

<新制度:介護医療保険料控除の上限額>

  • 所得税:4万円
  • 住民税:2万8,000円

控除の上限額は一般生命保険料控除と同額です。

個人年金保険料控除:老後保障を確保できる保険の保険料に適用

老後の暮らしを支える資金作りができる「個人年金保険」の保険料を支払うと、「個人年金保険料控除」を所得から差し引けます。ただし、個人年金保険料控除を受けられるのは「個人年金保険料税制適格特約」という特約が付加された「個人年金」の保険料を支払った場合のみとなります。

「年金の受取人は保険料を支払う本人または配偶者」であることが個人年金保険料控除を受ける条件となります。

個人年金保険料控除を使うことで、老後資金作りの負担を実質的に減らせる制度といえます。

<新制度:個人年金保険料控除の上限額>

  • 所得税:4万円
  • 住民税:2万8,000円

控除の上限額は一般生命保険料控除・介護医療保険料控除と同額です。

なお、新制度の3種類の控除額は、以下のとおり1月1日から12月31日までの「年間払込保険料額」によって段階的に異なります。

新制度の生命保険料控除額

所得税 住民税
年間払込保険料額 控除額 年間払込保険料額 控除額
2万円以下 払込保険料全額 1万2,000円以下 払込保険料全額
2万円超~4万円以下 (払込保険料×1/2)+1万円 1万2,000円超~3万2,000円以下 (払込保険料×1/2)+6,000円
4万円超~8万円以下 (払込保険料×1/4)+2万円 3万2,000円超~5万6,000円以下 (払込保険料×1/4)+1万4,000円
8万円超 一律4万円 5万6,000円超 一律2万8,000円

旧制度での生命保険料控除の種類と控除額

2011年12月31日までに契約した生命保険は、旧制度の生命保険料控除の対象となります。これから契約する生命保険に旧制度が適用されることはありません。

なお、長い期間契約し続けている生命保険が、もし更新型であるならば、更新日が2012年1月1日以後となる場合、旧制度から新制度へと適用が変わるため注意が必要です。

旧制度の対象となるのは「一般生命保険料控除」と「個人年金保険料控除」です。それぞれの対象となる生命保険と控除の上限額を紹介します。

一般生命保険料控除:生命保険全般に関する保険料に適用

旧制度の「一般生命保険料控除」は、新制度と比較して幅広い生命保険が対象となっています。

「保険金の受取人が、保険料を支払う本人またはその配偶者、その他の親族であること」が一般生命保険料控除を受ける上で必要な条件となります。

死亡時に備える「定期保険」「終身保険」や、入院や手術に備える「医療保険」「がん保険」、介護が必要になったときに備える「介護保険」も含まれます。

旧制度:一般生命保険料控除の上限額

  • 所得税:5万円
  • 住民税:3万5,000円

控除の上限額は新制度の所得税4万円・住民税2万8,000円と比較して大きい点が異なります。

個人年金保険料控除:老後保障を確保できる保険の保険料に適用

旧制度の「個人年金保険料控除」の対象になるのは、新制度と同じく「個人年金保険」をはじめとする老後に備える生命保険です。

ただし、「個人年金保険料税制適格特約」という特約が付加された「個人年金」の保険料を支払った場合のみ、個人年金保険料控除を受けられます。

また、「年金の受取人は保険料を支払う本人または配偶者」であることが個人年金保険料控除を受ける条件となります。

旧制度:個人年金保険料控除の上限額

  • 所得税:5万円
  • 住民税:3万5,000円

控除の上限額は一般生命保険料控除と同額に設定されています。

なお、旧制度の保険料控除額も新制度と同じように、年間払込保険料額によって段階的に決められています。

所得税 住民税
年間払込保険料額 控除額 年間払込保険料額 控除額
2万5,000円以下 払込保険料全額 1万5,000円以下 払込保険料全額
2万5,000円超~5万円以下 (払込保険料×1/2)+1万2,500円 1万5,000円超~4万円以下 (払込保険料×1/2)+7,500円
5万円超~10万円以下 (払込保険料×1/4)+2万5,000円 4万円超~7万円以下 (払込保険料×1/4)+1万7,500円
10万円超 一律5万円 7万円超 一律3万5,000円

新制度と旧制度の両方に対象となる保険契約がある場合

生命保険を複数契約している人の中には、新制度が適用される生命保険料控除と、旧制度が適用される生命保険料控除の両方を契約している人もいるでしょう。

このようなケースでは以下のとおり、新旧両方の制度を併用できます。

新旧制度全体で控除できる限度額(適用限度額)は、所得税で12万円、住民税で7万円となっています。

新制度のみ:生命保険料控除の上限額

  • 所得税:一般生命保険料控除+介護医療保険料控除+個人年金保険料控除=12万円
  • 住民税:一般生命保険料控除+介護医療保険料控除+個人年金保険料控除=7万円

旧制度のみ:生命保険料控除の上限額

  • 所得税:一般生命保険料控除+個人年金保険料控除=10万円
  • 住民税:一般生命保険料控除+個人年金保険料控除=7万円

新旧併用:生命保険料控除の上限額

  • 所得税:12万円
  • 住民税:7万円

生命保険料控除の控除額の計算方法

これまで生命保険料控除の特徴や仕組みについて解説してきました。

では実際のところ、生命保険料控除の控除額はどのように計算するのでしょうか?

具体的な事例を挙げながら見ていきましょう。

*加入している保険は全て「新制度」での加入を前提に計算しています。

所得税の控除額は払い込んだ保険料の全額~4万円まで

所得税の生命保険料控除額は1つの控除につき最大で4万円までです。

払い込んだ年間の保険料額がいくらかをチェックして、下記の表の該当する計算式に当てはめると控除額を計算できます。

新制度:所得税の生命保険料控除額

年間払込保険料額 控除額
2万円以下 払込保険料全額
2万円超~4万円以下 (払込保険料×1/2)+1万円
4万円超~8万円以下 (払込保険料×1/4)+2万円
8万円超 一律4万円

例えば、1ヶ月の保険料が5,000円の定期保険(新一般生命保険料控除)を契約している場合、年間払込保険料額は「5,000円×12ヶ月=6万円」です。

年間払込保険料額が6万円の場合、「4万円超~8万円以下」の計算式を利用します。「(払込保険料×1/4)+2万円」に当てはめて計算すると控除額は「3万5,000円」と求められます。

このケースでは生命保険料控除として課税所得を求めるときに所得から3万5,000円を差し引けます。

住民税の控除額は払い込んだ保険料の全額~2万8,000円まで

住民税の生命保険料控除額は1つの控除につき最大で2万8,000円までです。

住民税の生命保険料控除額の計算手順も所得税の求め方と同じです。以下の年間払込保険料額に該当する計算式を用いて求めます。

新制度:住民税の控除額

年間払込保険料額 控除額
1万2,000円以下 払込保険料全額
1万2,000円超~3万2,000円以下 (払込保険料×1/2)+6,000円
3万2,000円超~5万6,000円以下 (払込保険料×1/4)+1万4,000円
5万6,000円超 一律2万8,000円

例えば、前述の所得税を計算したときと同じく、年間払込保険料額が「6万円」のケースで見てみると、年間払込保険料額が「5万6,000円超」なので、上限の「2万8,000円」が控除額となります。

つまり、住民税を計算するときの課税所得を求めるときには、生命保険料控除として2万8,000円を差し引くことができます。

生命保険料控除でいくら戻るのか?計算してみた

以上のとおり、生命保険料控除額の計算方法を紹介しました。ただし控除額を計算しただけではどのような税金対策になるのか、具体的にはわかりません。

そこで実際にモデルケースを挙げてみて、生命保険料控除を活用することで所得税・住民税の負担がどれだけ軽減できるのか、見てみましょう。

<モデルケース>

■家族構成 夫・妻・子どもの3人
・保険契約者(保険料負担者):会社員/年収600万円
・配偶者の給与所得:なし
・扶養家族:子ども(大学生)1人

■年間払込保険料額(すべて新制度)
・一般生命保険料:4万円
・介護医療保険料:4万円
・個人年金保険料:12万円

■生命保険料控除以外の所得控除額
・基礎控除:所得税48万円、住民税43万円
・社会保険料控除: 80万円
・配偶者控除:38万円
・扶養控除:38万円

所得税の負担軽減額を計算

先に挙げたモデルケースで所得税を計算すると、所得税は「12万4,500円」(復興特別所得税を含めず)となります。

一方、生命保険に一切加入しておらず、年間払込保険料額が「0円」だった場合、所得税は「13万4,500円」(復興特別所得税を含めず)となります。

生命保険料控除を利用したモデルケースの場合の方が、生命保険料控除が「0円」の場合より、所得税額が1万円少なくなり、つまりその差額の「1万円」が所得税を負担軽減できる金額であることがわかります。

住民税の負担軽減額を計算

同様に住民税の場合も計算してみましょう。

先に挙げたモデルケースで住民税を計算すると、住民税は「24万2,500円」です。

一方、生命保険に一切加入しておらず、年間払込保険料額が「0円」だった場合、住民税は「24万9,500円」となります。

生命保険料控除を利用したモデルケースの場合の方が、生命保険料控除が「0円」の場合より、住民税額が7,000円少なくなり、つまり住民税の場合、その差額である「7,000円」が負担軽減できる金額であることがわかります。

所得税と住民税の合計の負担軽減額は?

今回の事例で述べると、所得税の負担軽減額が1万円、住民税の負担軽減額が7,000円となるので、合計して1万7,000円が負担軽減できることになるのです。

生命保険料控除を受ける手続き方法は?

生命保険料控除は何もしないままでは受けられません。対象となる生命保険料を支払っているのであれば、必ず手続きを行いましょう。

会社員や公務員であれば年末調整の手続きを、自営業者であれば確定申告の手続きを行います。

なお、年末調整や確定申告を行えば、別途住民税の手続きを行う必要はありません。

生命保険料控除証明書を手元に置いておこう

生命保険を契約している人には、毎年10~11月頃に「生命保険料控除証明書」が生命保険会社から送付されます。

生命保険料控除証明書とは、1年間に支払った保険料を証明するもので、生命保険料控除を受けるのに欠かせない書類です。

年末調整や確定申告書とともに添付書類として提出しなければいけないため、紛失に注意して保管しておきましょう。

会社員・公務員なら勤務先の「年末調整」で手続きを行う

会社員や公務員であれば、毎年11月頃に勤務先で「年末調整」の書類を提出します。

これら書類の中に「給与所得者の保険料控除申告書」があるので、保管していた生命保険料控除証明書をもとに、給与所得者の保険料控除申告書に必要事項を記入しましょう。

その後、勤務先の担当部署に、生命保険料控除証明書を添付して記入書類を提出します。

税金の還付のタイミングは勤務先によって異なりますが、所得税については一般的には12月支払い分の給与で行われます。住民税については、直接的な還付ではなく、翌年度の住民税の負担額が軽減される形になります。

自営業者なら確定申告で生命保険料控除の手続きを行う

自営業者は毎年2月半ばから3月半ばまでに行われる「確定申告」で手続きをしましょう。

申告書類に必要事項を記入して、生命保険料控除証明書を添付して、税務署に提出します。

所得税を払い過ぎていて還付金がある場合には、確定申告書を提出してからおよそ1~2ヶ月程度で指定した金融機関の口座へ振り込まるのが一般的です。住民税については、直接的な還付ではなく、翌年度の住民税の負担額が軽減される形になります。

年末調整の手続きを忘れた会社員でも確定申告で控除の申告は間に合う

もしも年末調整で生命保険料控除の手続きを忘れてしまったら、確定申告を行えばOKです。勤務先で発行される「源泉徴収票」と「生命保険料控除証明書」に加えマイナンバーカードなど「本人確認書類」を用意します。

確定申告書を作成し提出すれば、自営業者と同じように指定の口座へ振り込まれます。

なお、会社員であっても年収が2,000万円を超える人は会社で年末調整の手続きはできません。この場合にも確定申告の手続きが必要となります。

まとめ

生命保険料を支払っていると「生命保険料控除」が受けられます。生命保険料控除を利用すると課税所得を抑えられるため、所得税や住民税の対策につながります。

ただし、生命保険料控除を受けるには、年末調整や確定申告による手続きが必要なので、手続きの仕方についてチェックしておきましょう。

生命保険会社から送付される「生命保険料控除証明書」を保管しておき、必要書類へ記入し添付して、会社員や公務員なら勤務先に、自営業者なら税務署に提出します。

生命保険を契約して万が一に備えつつ、生命保険料控除を有効活用しましょう。

監修者 監修者

大矢 亜希子

税理士、AFP認定者・2級ファイナンシャルプランニング技能士

大矢 亜希子

オーキッドFP税理士事務所代表、(株)FPフローリスト所属FP。外資系税理士法人、海外の日系会計事務所等の勤務を経て、2019年に独立開業。税理士として、15年以上中小企業や大手企業の税務会計業務に携わる。ファイナンシャルプランナー(FP)として、経営者の事業とプライベートのお金の流れを整理するお手伝いを数多く経験してきており、現在はFP税理士として、主に女性経営者の個人的なお金の相談や相続の相談に力を入れている。また、海外に滞在していた経験を生かし、海外在住の方のライフプラン相談業務にも積極的に携わっている。

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