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転職前に保険業界の課題について知ろう!生命保険・損害保険の現状について徹底解説
「保険業界は古い業界」「もう成長が見込めない」そんなイメージを持っていませんか?
確かに保険業界は今、大きな変革期を迎えています。しかし、課題があるということは、それだけ成長の余地があり、新しいアイデアや若い力が求められているということでもあります。
この記事では、保険業界が直面する4つの課題と、それを乗り越えるための革新的な取り組み、そして就活生にとっての業界の魅力を徹底解説します。
保険業界の現状について

保険業界は今、複数の構造的な変化に直面しています。これらは一見すると業界にとってマイナス要因に見えますが、実は新しいビジネスモデルや価値創造のきっかけとなっています。
まずは保険業界の現状について詳しく見ていきましょう。
少子高齢化による契約者数の減少
日本の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年をピークに減少を続けており、2023年には約7,400万人と、ピーク時から約1,000万人も減少しています。これは保険業界にとって、従来の主要顧客層である働き盛り世代が縮小していることを意味します。
生命保険協会の調査によると、世帯加入率は約89%と高水準を維持しているものの、新規契約件数は横ばいから微減傾向にあります。人口減少は避けられない事実ですが、一方で高齢者人口は増加しており、医療保険やがん保険、介護保険といったシニア向け商品のニーズは拡大しています。
つまり、「量」から「質」への転換、そして新しい市場セグメントの開拓が求められているのです。
外資系企業の参入による競争の激化
1990年代後半の金融ビッグバン以降、アフラック、プルデンシャル、アクサ、メットライフなど多くの外資系保険会社が日本市場に参入しました。これらの企業は、従来の日本企業とは異なる販売手法や商品設計で市場シェアを拡大してきました。
特にアフラックはがん保険市場で圧倒的なシェアを持ち、郵便局との提携により全国的な販売網を構築。プルデンシャルは高度な営業コンサルティング手法で富裕層市場を開拓しました。
この競争激化により、日本の保険会社も商品開発力の強化、顧客サービスの向上、営業手法の革新を迫られています。
しかしこれは、業界全体のサービスレベルが向上し、消費者にとってより良い選択肢が増えることを意味します。競争があるからこそ、イノベーションが生まれるのです。
低金利環境下での運用難と返戻率の低下
日本銀行のマイナス金利政策(2016年導入、2024年3月解除)により、長期間にわたって超低金利環境が続きました。保険会社は契約者から預かった保険料を国債などで運用し、その運用益を保険金支払いや配当に充てていますが、低金利下では十分な運用益を確保することが困難になっています。
その結果、貯蓄性保険の返戻率(支払った保険料に対して戻ってくるお金の割合)は大幅に低下。かつては120〜130%だった終身保険の返戻率が、現在では100〜105%程度まで下がっています。一部の商品では、払込保険料総額を下回るケースさえあります。
デジタル化の波と顧客ニーズの変化
スマートフォンの普及により、顧客の行動様式は大きく変化しました。「店舗に行って対面で相談する」から「まずネットで情報を集める」「オンラインで完結させたい」というニーズが急速に拡大しています。
特に20〜30代の若年層は、保険の加入から請求まですべてをスマホで完結できることを期待しています。コロナ禍を経てこの傾向はさらに加速し、対面販売を中心としてきた従来の保険ビジネスモデルは大きな転換を迫られています。
また、顧客が求める保険も変化しています。「万が一に備える」という従来型の保障だけでなく、「日常的に使える」「健康増進に役立つ」といった付加価値を求める声が増えています。
歩いた歩数に応じて保険料が割引になる健康増進型保険や、運転データに基づいて保険料が変動するテレマティクス自動車保険など、テクノロジーを活用した新しい保険商品が登場しているのは、こうした顧客ニーズの変化に対応するためです。
保険業界が直面している4つの課題とは

市場環境の変化を踏まえ、保険業界が今まさに取り組むべき4つの重要課題を詳しく見ていきましょう。これらの課題は、言い換えれば「業界を変革するチャンス」でもあります。
販売チャネルの多様化への対応
かつて生命保険の販売といえば、「保険のおばちゃん」と呼ばれる営業職員による対面販売が主流でした。しかし今や、販売チャネルは驚くほど多様化しています。
主な販売チャネル:
- 従来型の営業職員チャネル
- 保険代理店(複数社の商品を扱う)
- 銀行窓販(銀行の店舗で保険を販売)
- 来店型保険ショップ(ショッピングモールなどに出店)
- インターネット通販(ネット完結型)
- 比較サイト・アグリゲーター
- 企業の福利厚生プログラム
それぞれのチャネルには特性があり、商品特性や顧客層に応じた最適な販売戦略が求められます。例えば、シンプルな定期保険はネット販売に適していますが、複雑な貯蓄性商品は対面でのコンサルティングが必要です。
この課題に対応するには、マルチチャネル戦略の設計、チャネルごとの顧客体験の最適化、そしてデータを活用した効果測定が不可欠です。マーケティング、デジタル戦略、顧客体験設計などのスキルを持つ人材が強く求められています。
DX推進と業務効率化の遅れ
保険業界は伝統的に紙ベースの業務プロセスが多く、デジタル化が遅れていると言われています。契約書類の記入、押印、郵送、審査、承認といった一連のプロセスには多くの人手と時間がかかり、顧客を待たせる要因となっています。
また、社内システムも古いレガシーシステムが残っており、データの活用が十分にできていないケースも少なくありません。契約情報、顧客情報、請求情報などが部門ごとに分断されており、統合的な顧客管理ができていない企業もあります。
DX推進の具体的な取り組み:
- ペーパーレス化、電子契約の導入
- AI-OCRによる書類の自動読み取り
- RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化
- AIによる査定業務の効率化
- クラウドシステムへの移行
- データ基盤の整備と分析環境の構築
DX推進は単なるシステム導入ではなく、業務プロセス全体を見直し、顧客体験を向上させるための変革です。IT人材だけでなく、業務を理解しながらデジタル化を推進できる「ビジネスとテクノロジーの橋渡し役」が必要とされています。
若年層へのリーチと顧客接点の創造
20〜30代の若年層は、保険に対して「必要性は感じるが、よくわからない」「難しそう」「自分にはまだ早い」といったイメージを持っています。生命保険文化センターの調査では、20代の生命保険加入率は約58%と、40代の約82%と比べて大きく低い水準にあります。
若年層が保険から遠ざかる理由:
- 保険の仕組みが複雑で理解しにくい
- 営業職員との対面が億劫
- 長期契約への抵抗感
- 可処分所得が少ない
- 情報収集の手段がわからない
一方で、若年層は早期に保険に加入することで保険料を抑えられるメリットがあり、また人生の早い段階から保障を持つことは合理的です。保険会社にとっても、若いうちから顧客との関係を築くことは長期的な顧客価値(LTV: Life Time Value)を高めることにつながります。
この課題に対しては、SNSを活用した情報発信、インフルエンサーとのコラボレーション、わかりやすい動画コンテンツの制作、少額短期保険の開発、ゲーミフィケーションを取り入れたアプリなど、若年層の感性に響くアプローチが求められています。デジタルマーケティングやコンテンツ制作のスキルが活かせる分野です。
人材確保と営業職員の育成
保険業界、特に生命保険会社の営業職員の平均年齢は上昇傾向にあり、若手人材の確保が大きな課題となっています。「保険営業」というと、ノルマが厳しい、離職率が高いといったネガティブなイメージを持たれることも多く、新卒採用に苦戦している企業もあります。
実際、生命保険会社の営業職員数は2000年代初頭の約50万人から現在は約23万人まで減少しています。これは営業手法の効率化という側面もありますが、人材確保の難しさも反映しています。
また、保険商品の多様化・複雑化により、営業職員に求められる知識レベルも高度化しています。ファイナンシャルプランナー(FP)資格の取得はもはや必須となり、税務、相続、資産運用など幅広い知識が必要です。
人材戦略の方向性:
- 働き方改革の推進(フレックスタイム、リモートワーク)
- キャリアパスの多様化(営業以外の職種の充実)
- 研修制度の充実と資格取得支援
- ダイバーシティの推進
- テクノロジーを活用した営業支援ツールの導入
- インセンティブ制度の見直し
特に注目すべきは、営業職以外のキャリアパスが広がっていることです。データアナリスト、デジタルマーケター、UXデザイナー、プロダクトマネージャー、アクチュアリー(保険数理人)など、多様な専門職のポジションが増えています。「保険会社=営業」というイメージは過去のものになりつつあります。
課題解決のための新たな取り組み

課題があるからこそ、保険業界は今、かつてないスピードで変革を進めています。ここでは、業界を変える4つの革新的な取り組みを紹介します。
InsurTechによるイノベーション
InsurTech(インシュアテック)とは、Insurance(保険)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語で、テクノロジーを活用して保険業界に革新をもたらす動きを指します。
AIによる査定自動化
東京海上日動は、自動車事故の損害査定にAIを活用し、査定時間を大幅に短縮。写真を撮影するだけで損害額を自動算出できるシステムを導入しています。
ウェアラブルデバイス連携
住友生命の「Vitality」は、スマートウォッチと連携し、日々の運動や健康診断の結果に応じて保険料が変動する画期的な商品です。健康になればなるほど保険料が安くなる仕組みで、「病気になってから支払う保険」から「健康を維持するための保険」への転換を示しています。
スタートアップとの協業
大手保険会社は、自社だけでイノベーションを起こすのではなく、InsurTech系スタートアップとの協業やCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)投資を積極的に行っています。justInCase、Lemonadeなどのスタートアップが注目を集めています。
このように、保険業界はもはや「古い業界」ではなく、最先端テクノロジーが活用される「未来志向の業界」へと変貌しています。
オンライン完結型サービスの拡大
コロナ禍を契機に、保険業界のオンライン化は急速に進みました。対面での販売や手続きが困難になる中、多くの保険会社がデジタルチャネルの強化に乗り出しました。
オンライン保険相談
ZoomやTeamsを使った非対面の保険相談が一般化。顧客は自宅にいながら専門家のアドバイスを受けられるようになりました。
ネット完結型保険
ライフネット生命、楽天生命、SBI生命などのネット生保は、加入から保険金請求まですべてをオンラインで完結できるサービスを提供。保険料の安さと手軽さで若年層を中心に支持を集めています。
チャットボット対応
24時間365日、AIチャットボットが質問に答え、簡単な手続きをサポート。有人対応が必要な場合はスムーズにオペレーターに引き継ぐハイブリッド型のカスタマーサービスが広がっています。
電子契約・電子交付
紙の契約書や保険証券に代わり、電子契約が標準化。契約手続きの時間が数週間から数日、場合によっては数時間に短縮されました。
オンライン化により、地理的制約がなくなり、地方在住者でも都市部と同じサービスを受けられるようになりました。また、顧客の利便性が向上するだけでなく、業務コストの削減にもつながっています。
データ活用による顧客体験の向上
保険会社は膨大な顧客データを保有していますが、従来はそれを十分に活用できていませんでした。しかし今、ビッグデータとAIの活用により、顧客一人ひとりに最適化されたサービス提供が可能になっています。
パーソナライゼーション
顧客の年齢、家族構成、ライフステージ、過去の行動履歴などを分析し、その人に最適な商品を推奨。「あなたにおすすめ」ではなく「あなただけの保険」を提案できるようになっています。
予測分析
解約リスクの高い顧客を事前に予測し、適切なタイミングでフォローアップ。顧客満足度の向上と解約率の低減を同時に実現しています。
リスク評価の精緻化
従来は年齢や性別といった大まかな属性でリスクを評価していましたが、より詳細なデータ(健康状態、生活習慣、職業、趣味など)を活用することで、公平で精緻なリスク評価が可能に。これにより、リスクの低い人は保険料が安くなり、よりきめ細かい商品設計ができるようになります。
不正検知
保険金請求のパターンをAIが分析し、不正請求の可能性がある案件を自動検出。健全な保険運営を支えています。
データサイエンティストやデータアナリストの需要は保険業界でも急増しており、理系人材だけでなく、データを読み解き、ビジネスに活かせる文系人材も求められています。
記事まとめ

本記事では、保険業界が直面する4つの課題を詳しく見てきました。
確かに保険業界は、少子高齢化、外資参入、低金利、デジタル化という厳しい環境変化にさらされています。しかし、これらの課題に真正面から向き合い、InsurTech、オンライン化、データ活用、働き方改革といった革新的な取り組みを進めることで、業界は確実に変わっていくでしょう。
保険業界は、社会的意義が大きく、安定性があり、幅広いスキルが身につき、そして今まさに変革の最前線にある、魅力的な業界です。「古い」「堅い」というイメージにとらわれず、ぜひ実際の企業を訪問し、説明会に参加して、業界のリアルな姿を確かめてみてください。
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