株式のリスクは推定できる?金融の専門家に質問してみた

個人が資産形成を始める手段として、株式投資や債券投資、投資信託などがあります。日本証券業協会の資料によると、現在の個人投資家の8割近くは株式を保有(※)。この株式の値動きの幅、つまりリスクが推定できたらいいと思いませんか?

そこで「リスクの推定」について研究されている、同志社大学の久保徳次郎教授にうかがったところ、興味深いさまざまなご回答をいただきました。

最も注目すべきは「最近の株式はランダムウォークしている」と言えること。ランダムウォークとは何か、それは個人投資家にとって良いことなのか?詳しくうかがいました。

※参考:日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査報告書(2020年12月)」より

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久保 徳次郎

同志社大学 教授

久保 徳次郎

長崎外国語短期大学国際文化学科(講師)、静岡大学法経短期大学部(助教授)、同志社大学経済学部(助教授)を経て、2004年より同志社大学大学院経済学研究科の教授。主な研究分野は、国際金融、デリバティブの数値計算法など。

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株式や債券のリスクは「観測不可能」

ーーまずは久保先生の研究内容について教えてください。

現在の研究の中心は、デリバティブを用いた「株式や債券のボラティリティの推定」です。

ボラティリティは値動きの程度を数値で表した指標のことで、一般的にはリスクと言われていますが、実は観測不可能なんですよ。学部レベルでは分散や標準偏差を算出して、それをボラティリティと言ってはいますが、厳密には分からないんですね。

そこで数式モデルを用いて推定していきますが、そこで使われる関数は非常に複雑なので、コンピュータに計算させるわけです。そうやってボラティリティを推定しているのです。厄介なのは、現在のところこの数式モデルは多数存在していて、決定版が存在しないということです。

ーーリスクのある金融商品のうち、代表的なのは株式と債券です。これらにはどのような違いがあるのでしょうか。

株式と債券は、どちらも企業が資金調達する手段です。このうち債券は、企業にとっては「借金」。発行して投資家に買ってもらったら、定期的に金利を支払い、満期日が来たらきちんと元本を返済する必要があります。

一方の株式は、借金ではありません。投資家に買ってもらったら、企業業績に応じて利益から配当を払っていけばいいのです。

株式の方が企業から見て金銭的な負担が少ないのですが、株式には経営権が関わってきます。株式の持ち分に応じて企業に対する支配比率が変わってきますので、あまりに株式を発行すると、経営権が取られてしまう可能性があります。

こうしたメリット・デメリットの違う2つの資金調達手段を使って、企業はお金を集めているのです。

株式・債券は「ランダムウォーク」している

ーー先ほど株式や債券のリスクは予測できないとうかがいました。もう少し詳しく教えていただけますか?

経済評論家であれば、過去の値動きについてのさまざまな判断材料を元に解釈を語ったり、今後の相場を予想したりすると思います。しかし研究者の立場からすると、予測はできない、としか言えません。

私は毎年ゼミ生に対して、Yahoo!ファイナンスから取得した株価のヒストリーデータを用いて、株価がどんな動きをしているのかということをチェックさせています。

この中で最も重要なのは、株価が「ランダムウォーク」しているかどうかを調べることです。ランダムウォークとは、規則性がない動きのことを指します。

あくまで簡易的なチェックではありますが、この結果を見ると、上場株式の大半は日次データ・月次データともランダムウォークしているんです。

ランダムウォークしている、つまりでたらめに動いてるわけですから、理論やモデルでは予測できないということになります。

ーー規則性がないならば、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析を行ってもあまり意味がないのでしょうか…?

「ランダムウォークしている」ということだけを考えれば、意味がないということになってしまいます。

ただランダムウォークしているのは日次データ・月次データから調査した結果なので、長期的な観点から他の要因によって規則性がある可能性はゼロではないと思います。また、企業の業績や財務状況、景気の良し悪しなどを用いたファンダメンタルズ分析には、一定の有効性が見られる場合があります。

とはいえ、どちらの分析方法も過去のデータやトレンドから導くものなので、未来が確実にわかるとは言えないですよね。

資産運用方法は「リスク・リターンの大きさ」から検討

ーー現在は預金金利が低いので、個人も資産運用を考えた方がいい環境だと言われています。資産運用手段はどうやって考えたらいいのでしょうか?

資産運用の大原則は、ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンです。

もしリスクゼロを望むなら、銀行預金しかありません。元本が1000万円以下なら、万が一銀行が破綻しても保証されるからです。そして銀行預金以上の利回りや収益を期待するなら、必ずそれなりのリスクが伴います。

金融商品にまつわる一番の問題は、販売する金融機関側・購入する投資家側のどちらも、正確なリスクの評価ができないということです。他の一般的な商品であれば、何かしら値付けに明確な根拠があると思いますが、金融商品は、その値付けやリスクの部分に曖昧さがあります。「わからないものを買う」状態になってしまいますよね。

この状態だと、金融商品を販売する側の人は「リスクは分からないけれど、商売のために売っている」。そう言われても仕方がないと思います。

ーーなかなか辛口ですね…。

ただ、先ほどのランダムウォークは、別に悪いことではないのです。規則性がないということは、「誰に対しても市場が平等である」とも解釈できますから。

ーーランダムウォークはむしろ、個人投資家にとってチャンスなのでしょうか?

そうですね。研究者の立場からすると、株式や債券がランダムウォークしているのは良いことで、「フェアゲーム」と呼んでいます。規則性がないことで、誰か特定の人が儲かるわけではない、平等な環境になっていると言えます。

ただ最近「株で儲けた」という人の話が多いと思いませんか?2021年2月16日には日経平均株価がバブル期以降最高値の3万714円をつけました。日本は不況かつコロナ禍ですが、ここまで株高なのはなぜだと思いますか?

ーーなぜでしょうか…。理由を教えてください。

その理由は、日本銀行が日本の株式を買い支えているからです。簿価ベースでは約35兆円、時価ベースでは先の2月16日時点では約50兆円に膨らんでいます。株式全体の時価総額は735兆円ですので、日本銀行は株式市場全体で7%の株式を保有していることになります。これによる「歪み」が起こってる可能性があるかもしれません。

ここ数年、市場では「株式が1%以上下がると、日本銀行が介入する」という情報が一部で流れていました。この情報が真実だとすると、その一部の投資家が買いに走りますよね。安く買ってその翌日に売れば差額で儲かりますから。

そうするとフェアゲームではなくなり、こうした特殊な情報を持っている人だけが儲けられることになります。投資は基本的に情報戦です。これを念頭に置いて取引されるといいと思います。

リスク許容度に合わせた投資を行う

ーー厳しいお話が続きましたが、今後の金融商品や投資家に対して先生が期待することを教えてください。

金融商品を販売する側に対しては、きちんとリスクとリターンを表示できるよう数値指標を開発するべきだと考えています。もっと商品開発に関して努力できるのではないかと。多くの方が「納得」して金融商品を購入できるようにしていただきたいです。

個人投資家に対しては、資産運用に取り組むなら、こうした株式や債券の不確実性を理解した上で投資していただきたいと思います。原則は、ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターン。自分のリスクの許容範囲内で商品を選んで、好きな企業や応援したい企業の株を長期で保有してはいかがでしょうか。

ただし、いきなり自分の一生を賭けるような大きな投資はしないこと。現在は、年間120万円まで非課税で取引できるNISA制度がありますので、まずはこのNISAを使って投資を始めればいいと思います。

ーー株式のリスクが取れない場合、投資信託や債券を購入すればいいのでしょうか?

株式投資では、ショートポジション(売りポジション)・ロングポジション(買いポジション)を取って投資ができればいいのですが、なかなか個人でショートポジションを取るのは難しいです。

その点ではやはりプロの投資会社が勝るので、そういった会社が作った投資信託を購入することになると思います。

債券の中でリスクが低いのは、個人向け国債です。国債の利回りは低くですが、それよりも少し高い利回りの優良企業の社債なら、株式や投資信託よりは安心して保有できると思います。投資というより貯蓄に近くなりますが。

現在デイトレードなどの短期的な投資は、コンピュータによるアルゴリズム取引が主流です。したがって、人間である投資家としては、自分が許容できるリスクと期待するリターンの「組合せ」を考慮しながら、長期的な観点で投資をされてはいかがでしょうか。

執筆:金指 歩

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