公的医療保険制度とは?加入者や家族が受けられる給付金・サービスを解説
更新日:23.01.10
「そもそも公的医療保険制度はどんなときに役立つの?」
「公的医療保険にはどのような給付金・サービスが受けられる?」
このような公的医療保険について疑問を抱いている人は少なくないかもしれません。
公的医療保険はたんに医療費の自己負担を軽減してくれるだけではありません。他にも「高額療養費制度」「出産育児一時金」「出産手当金」「傷病手当金」といった給付金やサービスが備わっています。
公的医療保険にはどんな制度なのか、加入者には具体的にどのような給付金・サービスを受けられるのか、詳しく解説していきましょう。
公的医療保険制度とは?基本知識を押さえよう
公的医療保険とは、医療費の一部を負担してくれる社会保障制度です。
公的医療保険に加入することで、病気やけがで病院を受診したとき、健康保険証を提示すれば、医療費の自己負担割合を最大で3割に抑えられます。
日本では「国民皆保険制度」を導入しており、日本に住む人全員が、無理なく負担できる医療費で病院を受診できる仕組みになっています。
公的医療保険にはどんな種類がある?
ひと口に公的医療保険といっても、公的医療保険には複数の種類があります。
公的医療保険には大きく分けて、給与所得者が加入する「被用者保険」と、自営業者や農業・漁業の人などが加入する「国民健康保険」、75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」があります。
公的医療保険の種類と対象者
- 被用者保険(給与所得者のための医療保険)
┝健康保険組合:主に大企業の会社員とその扶養家族
┝協会けんぽ:主に中小企業の会社員とその扶養家族
┝共済組合:公務員や私学教職員とその扶養家族
┗船員保険:船員とその扶養家族 - 国民健康保険:自営業者や農業など
- 後期高齢者医療制度:原則として75歳以上の人
公的医療保険は医療機関へ「フリーアクセス」できるのが特徴
日本の公的医療保険は、「フリーアクセス」という制度を導入していることが大きな特徴です。フリーアクセスとは、加入している公的医療保険にかかわらず、自由に医療機関を選んで、どんな医師の医療でも受けられる仕組みのことです。
日本で病院を受診するときには「自宅や勤務先に近いから」「長く通っていて信頼しているから」「評判のよい医師がいると聞いたから」などの理由で、好きな医療機関へかかっているのが一般的でしょう。
しかし他の国や地域によっては、かかりつけ医しか受診できない制度を導入しているケースも少なくありません。受けたい治療に合わせて自分の意思で医療機関を選べるのは、日本の公的医療保険のメリットといえるのです。
公的医療保険制度で受けられる給付金・サービスとは?
公的医療保険は加入する保険によって給付金やサービスの金額や内容が異なります。被用者保険と国民健康保険では大きな違いがあるため、下の表でチェックしておきましょう。
なお、ここでは「これだけは知っておきたい!」という代表的な給付やサービスを紹介しています。また、公的医療保険の実施母体によっては、独自の給付を行っている場合もありますので、詳しくは加入している公的医療保険に確認してみるとよいでしょう。
保障内容 | 被用者保険 | 国民健康保険 |
---|---|---|
自己負担額 | ・義務教育就学前:2割 ・義務教育就学~70歳未満:3割 ・70歳以上:2割 *所得が一定以上なら3割、2014年3月31日以前に70歳になった人は1割 |
|
高額療養費 | 1ヶ月の医療費の自己負担額が一定の金額を超えたとき、超過分の払い戻しを受けられる | |
出産育児一時金 | 原則42万円 | |
傷病手当金 | 病気やけがで連続3日以上休んだとき、最長1年半を上限に4日目から1日につき標準報酬日額の2/3相当額が支給される | なし |
出産手当金 | 出産のために休み収入を受け取れないとき、原則として産前42日から産後56日までの間、欠勤1日につき標準報酬日額の2/3の相当額が支給される | なし |
死亡時の給付金 | 埋葬費(料):5万円 | 葬祭費:3~7万円(自治体による) |
自分や配偶者の加入している公的医療保険を確認し、どのような保障を受けられるか確認しておくと安心です。それぞれの保障がどのような内容なのか、詳細をチェックします。
医療費の自己負担を抑えられる!療養費の自己負担割合0~3割
医療機関へ健康保険証を提示すれば、医療費の自己負担割合は0~3割となります。負担する割合は年齢によって異なります。
医療費の負担割合
- 義務教育就学前:2割
- 義務教育就学~70歳未満:3割
- 70歳以上:2割(※所得が一定以上なら3割、2014年3月31日以前に70歳になった人は1割)
子どもの医療費は「無料」のケースもあります。無料になるかどうか、無料になる期間などは自治体ごとにルールが決められていますが、「小学校卒業まで医療費無料」「中学校卒業まで医療費無料」、なかには「高校卒業まで医療費無料」というように設定されている自治体もあります。
ただし注意しておきたいのは、公的医療保険で全ての医療費が自己負担を抑えられるわけではないということです。
公的医療保険ではあくまでも日常生活に支障をきたす病気やけがの療養にかかる医療費の自己負担を抑えるための制度です。そのため予防や美容などで病院に受診するときには保険適用外となり全額を自己負担しなければなりません。
また病気やけがによる受診であっても、希望の治療が公的医療保険の対象外だと保険適用外となり、10割負担しなければいけません。
<代表的な保険適用外の診療>
・美容整形
・近視の手術
・予防注射
・健康診断
・正常な妊娠・出産
・公的医療保険の対象に指定されていない先進医療 など
なお、正常な妊娠・出産による妊婦健診は公的医療保険では適用外となります。妊娠・出産は「病気」として扱われていないためです。ただし、出産育児一時金が別途用意されています。
妊婦健診を受ける際は、母子健康手帳と同時に、自治体は「妊娠健康診査受診票」を発行しています。これは病院での会計の際に費用の割引券として使うことができ、自己負担をある程度抑えることができます。
高額な治療費を抑えてくれる高額療養費制度
1ヶ月間にかかった医療費が一定の自己負担限度額を超えたなら「高額療養費制度」の対象となり、自己負担限度額を超えて支払った医療費は払い戻しを受けられます。
自己負担限度額は年齢や所得によって異なりますが、例えば70歳未満で月給が27万~51.5万円未満であれば、自己負担限度額は約8万円程度にまで抑えられます。
70歳未満の医療費の自己負担限度額
月給:会社員や公務員など 所得(*):自営業者など | 自己負担限度額(月額) | 多数回*該当の場合の自己負担限度額 |
---|---|---|
月給27万円未満(標準報酬月額26万円以下) | 5万7,600円 | 4万4,400円 |
所得210万円以下 | ||
月給27万円以上51.5万円未満(標準報酬月額28万円~50万円) | 8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1% | 4万4,400円 |
所得210万円超600万円以下 | ||
月給51.5万円以上81万円未満(標準報酬月額53万円~79万円) | 16万7,400円+(総医療費-55万8,000円)×1% | 9万3,000円 |
所得600万円超901万円以下 | ||
月給81万円以上(標準報酬月額83万円以上) | 25万2,600円+(総医療費-84万2,000円)×1% | 14万100円 |
所得901万円超 | ||
住民税非課税者(低所得世帯) | 3万5,4000円 | 2万4,600円 |
*過去1年間で4回目以降
*所得とは、前年の総所得金額等から基礎控除33万円を差し引いた金額で、加入者全員分の合計金額です
*総医療費とは、保険適用される診療費用の総額(10割の金額)です
高額療養費制度を利用するには、加入している公的医療保険で手続きします。事前に医療費が高額になるとわかっているときには「限度額適用認定証」を発行してもらうと便利です。
後から払い戻しを受けられるとしても、一時的に高額の医療費を支払うのは家計に大きな負担がかかるでしょう。限度額適用認定証があれば医療機関の窓口で負担する医療費の上限を、自己負担限度額までに抑えられます。家計への医療費負担を減らすのに役立つ方法です。
ただし医療費が全額負担となる保険適用外の医療費は利用の対象にはなりません。
病気やケガで働けなくなったときの傷病手当金
病気やけがをして仕事を休まなければならないときに受け取れるのが「傷病手当金」です。被保険者が休業している間の生活を保障する目的で、給料(「標準報酬日額」)の約2/3相当額を、最長で1年半受け取れます。
傷病手当金の対象となる条件
- 業務外の事由による病気やけが
- 仕事ができない状態であること
- 連続する3日間を含め4日以上仕事ができないこと
- 休業した期間中の給与がないか、傷病手当金より少ないこと
*休業期間中の給与が支給された場合は、給与額を減額して傷病手当金が支給される
何らかの病気やけがで休業せざるを得ない状態になったとしても、勤務中や通勤中の事由によるものであれば労災保険の対象となります。公的医療保険の対象にはなりません。
なお、傷病手当金の制度を設けているのは「健康保険組合」「協会けんぽ」「共済組合」「船員保険」といった「被用者保険」に限られており、「国民健康保険」では傷病手当金は受け取れません。
ただし被用者保険の加入者の資格を喪失した後であっても、下記の条件を満たしていれば出産手当金を受け取れます。
資格喪失後に傷病手当金を受け取れる条件
- 退職日までの被保険者期間が1年間以上
- 被保険者資格喪失時点で傷病手当金を受ける条件を満たしていた
出産時の経済的サポートをしてくれる出産手当金
産前休業は原則として出産予定日の6週間(42日間)前から任意で休業開始日を決められます。また産後休業は出産翌日から8週間(56日間)の取得が法律で義務付けられています。
仕事を休まなければいけない産前産後の収入をカバーしてくれるのが「出産手当金」です。
出産手当金の金額や期間
- 金額:給料(「標準報酬日額」)の約2/3相当額
- 期間:原則として出産日以前42日から出産日の後56日まで
*出産日が出産予定日より遅れた場合、遅れた日数分も支給
出産手当金を受け取れるのは、会社員や公務員など「被用者保険」に加入している被保険者です。国民健康保険へ加入している場合は給付されません。
ただし被用者保険の加入者の資格を喪失した後であっても、下記の条件を満たしていれば出産手当金を受け取れます。
資格喪失後に出産手当金を受け取れる条件
- 退職日までの被保険者期間が1年間以上
- 退職日の前日に出産日以前42日目以降
- 退職日は出勤していない
出産・分娩費用に充てられる出産育児一時金
「出産育児一時金」は出産・分娩の費用として、被保険者が出産した場合に42万円が支給されます。また、扶養家族が出産した場合にも支給を受けることができます。
ただし、出産する医療機関が産科医療補償制度(対象となる医療機関で出産し、分娩時の何らかの理由で重度の脳性まひとなった場合、経済的負担を補償する制度)へ加入していない場合は40万4000円となります。
出産育児一時金の支給金額や条件
- 金額:42万円(※産科医療補償制度未加入の医療機関での出産は40万4000円)
- 対象:被保険者やその扶養家族が出産した場合
- 妊娠期間:妊娠4ヶ月(85日)以上での出産(※早産・死産・流産・人工妊娠中絶も対象)
出産育児一時金には「直接支払制度」があります。直接支払制度とは、医療機関が被保険者に代わって公的医療保険に出産育児一時金の申請を行い、直接出産育児一時金の支給を受けることができる制度です。
直接支払制度を利用すると、出産育児一時金は出産する医療機関へ支払われるので、医療機関の窓口で出産・分娩にかかった高額な費用を支払う必要がないというメリットがあります。
民間の医療保険に加入した方がいいの?
日本に住む全ての人が加入している公的医療保険について紹介しました。医療費の自己負担が最大3割のほかにも、さまざまな給付金・サービスがあることがおわかりいただけましたでしょうか。
公的医療保険の中身を知って、「意外と手厚い保障があって安心した」とほっとした人もいるでしょう。公的医療保険は病気やけがの治療に専念できるサポート体制が整っているのです。
しかし医療機関でかかる費用の中には、公的医療保険の対象外のものもある点に注意しましょう。対象外の費用は全額自己負担のため、想定以上の費用がかかるかもしれません。
公的医療保険の保障範囲外となる費用
公的医療保険の保障は充実していますが、それだけではカバーしきれない費用もあります。数千円ほどの費用でも、治療が長引けばその分負担額は大きくなるでしょう。
公的医療保険対象外の費用
- 入院時の食事代の一部負担
原則として1食460円 - 差額ベッド代
平均額1日6,258円(平成30年7月1日現在、厚生労働省保険局医療課調べ) - 先進医療の技術料
公的医療保険の対象外は全額自己負担(重粒子線治療:平均額308万9,343円、陽子線治療:平均額269万7,658円*) - その他の費用
入院時に使用する衣類・タオル・洗面用具などの日用品費、お見舞いに来る家族の交通費など
*中央社会保険医療協議会「令和元年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」
例えば10日間入院すると、食費は460円×1日3食×10日=1万3,800円、差額ベッド代は6,258円×10日=6万2580円、その他の費用を仮に1日1万円×10日=10万円として計算すると、合計で17万6,380円もの費用を自己負担しなければなりません。
もしも公的医療保険対象外の先進医療を受けたとすれば、さらに高額の医療費が必要です。
医療保障を手厚くしたいなら民間の医療保険に加入も検討を
入院時の食事代や差額ベッド代など、公的医療保険でカバーされない費用に備えるなら、民間の医療保険へ加入するのも一つの選択肢です。
民間の医療保険の加入を検討するなら、入院給付金が日額でいくら受け取れるか、入院の何日目から受け取れるかも確認しましょう。
民間の医療保険の中には、日帰り入院でも保障されるものもあれば、入院5日目からでなければ保障されないものもあります。入院給付金が十分な金額でも給付が遅ければ、必要なときに必要な費用を用意できない可能性もあるので注意が必要です。
また、「必要に応じて先進医療も受けたい」と考えているなら、先進医療費用をカバーしてくれる「先進医療特約」を付加するのもいいでしょう。他にも「生活習慣病入院特約」「女性疾病入院特約」「がん入院特約」など、さまざまな特約を付加することで医療保障を手厚くできます。
なお、自営業者など国民健康保険の加入者は、病気やけがで休業せざるを得ない状況でも「傷病手当金」といった公的な手当金を受け取れませんので、休業における収入の保障をカバーするためにも、民間保険会社が取り扱う「就業不能保険」や「所得補償保険」への加入もしておくのも一つの方法でしょう。
まとめ
公的医療保険は日本に住む人全員が加入する公的保障制度です。健康保険証を提示すれば、どこの医療機関へ行っても、医療費は最大3割の自己負担で医師の診療を受けられます。
また、1ヶ月の医療費が高額になったときには「高額療養費制度」の対象となり、自己負担限度額を超えて支払った医療費は払い戻しを受けられます。
さらに、公的医療保険の被保険者やその扶養家族は「出産育児一時金」も受け取れます。会社員や公務員が加入する「健康保険組合」「協会けんぽ」「共済組合」の加入者の場合だと、「傷病手当金」や「出産手当金」も支給されます。
<公的医療保険の種類と保障(代表的な給付)>
- 被用者保険(健康保険組合・協会けんぽ・共済組合・船員保険)
┝療養の給付(医療費の3割負担)※負担割合は年齢による
┝高額療養費制度
┝出産育児一時金
┝傷病手当金
┝出産手当金
┗埋葬費(料) - 国民健康保険
┝療養の給付(医療費の3割負担)※負担割合は年齢による
┝高額療養費制度
┝出産育児一時金
┗葬祭費
公的医療保険だけでもさまざまな保障を受けられますが、それだけではカバーしきれない費用もあります。万が一のための備えを行うなら、民間の医療保険に加入して医療保障をプラスするとよいでしょう。
監修者

社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
地域金融機関に勤務した後、社会保険労務士、年金アドバイザーなどの資格を取得し、年金記録確認第三者委員会に勤務。その後社会保険労務士事務所を開業し、法人向けの労働相談、就業規則作成などの業務に携わる傍ら、年金事務所や地方銀行の年金相談員として活動し、多数の年金相談を受けている。
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