老後の生活費はいくら必要?老後資金の実態や公的年金の不足分に備える方法

老後の生活費はどれくらいかかる?
老後資金はどうやって準備したらいいの?
金融庁のワーキンググループによる報告書で話題になった「老後2000万問題」は記憶に新しく、老後生活に漠然とした不安を抱える人も多いでしょう。

この記事では老後にどのくらいの生活費が実際にかかっているのかを統計データなどを通して検証し、公的年金だけでは本当に足りないのか、足りない場合どうやって備えればよいかを解説します。

自分の老後生活のイメージを明確にして、老後におけるライフプランの立て方や実践すべきことをイメージしましょう。

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老後の生活費はいくらかかる?最低日常生活費などの実態を解説

生命保険文化センターが行っている「生活保障に関する調査(令和元年度)」により、一般的に老後にはどのくらいのお金が必要だと考えられているかを見ていきましょう。

「生活保障に関する調査」は、全国の18歳から69歳の人を対象に、老後や万一の場合を含め、生活保障についてどのような考えを持っているかを聞き取り調査したものです。

現役世代やリタイアしてまだそれほど経っていない世代の考え方を知ることができる貴重なデータですが、実績値ではないことには留意が必要です。

参照:生命保険文化センター:生活保障に関する調査(令和元年度)〜老後の生活費はいくらくらい必要と考える?〜

老後の最低日常生活費はいくら?

生命保険文化センターの調査結果によると、夫婦2人で老後生活を送るうえで必要と考えられている最低日常生活費は上記のとおり、平均すると月額22.1万円が必要と考えられています。

現在の年収が高くなれば必要と考える生活費も多くなる傾向はありますが、年代や性別、居住地などでは大きな違いはありませんでした。

<老後の最低日常生活費>

平均:月額約22.1万円

回答内訳
・15万円未満:5.9%
・15~20万円未満:13.0%
・20~25万円未満:29.4%
・25~30万円未満:13.1%
・30~40万円未満:17.0%
・40万円以上:1.9%
・わからない:19.6%

生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和元年度)」より

老後にゆとりある生活を送るにはいくら必要?

生命保険文化センターが実施した同調査によると、旅行や趣味、交際費や消費財の買い替えなどを加味した「ゆとりある生活費」を送る上で必要な金額は平均すると月額36.1万円でした。

先ほど紹介した老後の最低日常生活費に加えて、平均14.0万円/月の備えが必要となります。

平均:月額約36.1万円

・20万円未満:2.8%
・20~25万円未満:7.3%
・25~30万円未満:10.6%
・30~35万円未満:20.8%
・35~40万円未満:9.5%
・40~45万円未満:10.8%
・45~50万円未満:2.9%
・50万円以上:15.6%
・わからない:19.6%

生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和元年度)」より

年収が高い層や都市部に住む層で高くなる一方、年齢別に見ると60歳代で低くなる傾向がみられました。

老後のゆとりある生活費の内訳

老後のゆとりとはどのようなものなのか、そのお金の使い道も調査したところ、以下のような結果でした。

<老後のゆとりのための上乗せ額の使途(複数回答)>

  • 旅行やレジャー:60.7%
  • 趣味や教養:51.1%
  • 日常生活費の充実:49.6%
  • 身内とのつきあい:48.8%
  • 耐久消費財の買い替え:30.0%
  • 子どもや孫への資金援助:22.4%
  • 隣人や友人とのつきあい:15.5%
  • とりあえず貯蓄:3.7%
  • その他:0.4%
  • わからない:0.4%

生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和元年度)」より

老後生活の生活設計はできている?

自分や家族の将来のために、経済的な準備を含めた生活設計を立てているかという質問に対する回答は、過半は「生活設計なし」という回答でした。漠然と不安を感じつつも、具体的には動いていないという実態があるようです。

特に若い世代では生活設計なしの割合が高かった一方、男性は30~40歳代、女性は60歳代で生活設計を立てている人の割合が高くなっています。

<生活設計の有無>

  • 生活設計あり:37.0%
  • 生活設計なし:55.7%
  • わからない:7.3%

生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和元年度)」より

自分や家族の将来のために、経済的な準備を含めた生活設計を立てているかどうかを聞き取った結果は、過半は「生活設計なし」という回答でした。漠然と不安を感じつつも、具体的には動いていないという実態があるようです。

特に若い世代では生活設計なしの割合が高かった一方、男性は30~40歳代、女性は60歳代で生活設計を立てている人の割合が高くなっています。

老後生活費の実態|実際の老後生活にはいくらかかっている?

老後生活費をイメージするにあたり、参考にしたいのが総務省が出している家計調査年報(家計収支編)2019年です。家計調査では、何にどのくらいお金がかかっているかの実態をつかむことができます。

ここからは家計調査年報(家計収支編)2019年を見ながら、実際の老後生活費がどのくらいかかっているか、見ていきましょう。

*なお、最新のデータは2020年のものですが、コロナの影響もあり、例年と少し違った動きをしているため、ここでは2019年のデータを参考にしております。

高齢夫婦二人世帯の場合の老後生活費の金額内訳

まず、高齢夫婦二人世帯の場合を見てみましょう。平均すると下記のような結果となっています。

<平均実支出額と平均実収入額(高齢夫婦二人世帯の場合)>

  • 実支出:月額27万929円
  • 実収入:月額23万7,659円

※夫65歳以上、妻65歳以上の夫婦二人のみの無職世帯の平均

平均の実支出額は、実収入額を月額3万3,270円上回っています。つまり、月額3万円を超える赤字が出ているということです。

例えば老後を65歳から90歳までの25年間とすると、3万3,270円×12ヶ月×25年=998万1,000円も不足することになります。

この金額が単純計算で導き出される「必要な老後資金の額」ということになります。簡単に内訳を見てみましょう。まずは支出からです。

平均実支出額内訳(高齢夫婦二人世帯の場合)

支出先 金額
食費 66,458円
住居 13,625円
水道光熱費 19,983円
家具、家事用品 10,100円
被服、履物 6,065円
保健医療 15,759円
交通、通信 28,328円
教育 20円
教養娯楽 24,804円
その他(交際費等) 54,806円
税金、社会保険料 30,982円
合計 270,929円

*端数処理の関係で合計が不一致となる場合がございます

一番大きい支出は食費ですが、意外と税金等の非消費支出の負担も大きいことがわかります。

注意したいのは、この中には住宅ローンの返済が含まれていないことと、持ち家率が約93%と高く、家賃を払っている人があまり含まれていないこと。住宅ローンの返済が終わっていなかったり、賃貸住まいだったりすると住居費がさらにかかってくることになります。

次に収入を見てみましょう。

<平均実収入額内訳(高齢夫婦二人世帯の場合)>

収入元 金額
勤労、事業等収入 11,527円
財産収入 3,015円
公的年金給付 215,288円
その他の社会保障給付 1,622円
仕送り金 469円
特別収入 5,738円
合計 237,659円

*端数処理の関係で合計が不一致となる場合がございます

公的年金給付のウェイトが非常に高く、約90%に上ります。公的年金を可能な限り充実させておくことが老後の安定につながるといえるでしょう。なお、公的年金給付の中には個人年金や企業年金を含む財産の取り崩しは含まれていません。

ちなみに個人年金と企業年金の平均受取額は月額2万1,835円となっており、平均的な家庭だと、先ほどの約1,000万円弱に上る不足額のうち、約655万円(=2万1,835円×12ヶ月×25年間)はすでに準備済みであり、不足額は約345万円(=約1,000万円-約655万円)に圧縮されます。

逆に言うと、必要となる生活費をまだ賄えておらず他に資産がなければ、ゆとりは持てないことを意味します。

また、高齢無職世帯が対象の集計ですが、勤労などの収入がある程度あることも注目です。現役世代のような常勤の勤務ではなくても、勤労収入があると生活はぐっと楽になります。

高齢一人暮らし世帯(単身世帯)の場合の生活費と金額内訳

今度は「おひとりさま」の老後生活費を見てみましょう。

<平均実支出額と平均実収入額(単身者世帯の場合)>

  • 実支出:月額15万533円
  • 実収入:月額12万6,500円

*65歳以上の単身者無職世帯の平均

平均の実支出額が実収入額を月額2万4,033円上回っています。単身世帯でもやはり赤字が出ていますね。

夫婦二人世帯と同様に不足額を計算すると、2万4,033円×12ヶ月×25年=720万9,900円となります。

以下、内訳を見てみましょう。まずは支出です。

<平均実支出額内訳(高齢単身者世帯の場合)>

支出先 金額
食費 35,477円
住居 13,110円
水道光熱費 12,973円
家具、家事用品 5,573円
被服、履物 3,608円
保健医療 8,469円
交通、通信 12,672円
教育 50円
教養娯楽 16,105円
その他(交際費等) 30,586円
税金、社会保険料 11,910円
合計 150,533円

*端数処理の関係で合計が不一致となる場合がございます

傾向としてはおおむね高齢夫婦二人世帯と同じですね。

公的年金の受給の関係か、「税金、社会保険料」が少なくなっています。

また、こちらの集計対象の持ち家率は約84%と、夫婦二人世帯より家賃を払っている人の割合が少し多めです。それでも先ほど述べたように、8割を超える人が家賃を払っておらず、住宅ローンも集計に含まれない点は要注意です。

続いては収入を見てみましょう。

<平均実収入額内訳(高齢単身者世帯の場合)>

収入元 金額
勤労、事業等収入 836円
財産収入 2,365円
公的年金給付 118,274円
仕送り金 1,119円
特別収入 3,906円
合計 126,500円

*端数処理の関係で合計が不一致となる場合がございます

支出についても高齢二人夫婦と同様に、公的年金の比率が約93%と高くなっています。また、個人年金や企業年金の金額が含まれていない点は同様ですが、こちらは集計結果に個人・企業年金の給付の項目がありません。

「公的年金等の社会保障給付」内にある「その他の保険金給付」が1万47円となっており、仮にこれがすべて個人年金や企業年金とすると、25年分の金額は301万4,100円(=1万47円×12ヶ月×25年間)となります。不足額は約420万円(=約720万円-約300万円)に圧縮されます。

おひとりさま世帯の方が、平均から単純計算すると老後に備えなければならない額が多いということがわかります。

老後生活費の実態|老後の支出にはどのような変化がある?

これからの生活設計を立てる上では、今の生活がずっと続くのではなく、ライフステージごとの支出を見極めておきたいところです。

老後になると年齢も重ね、勤務先も退職したりして、お金の使い方も自ずと変わってきます。

例えば子育てにかかっていた費用は子どもが独立するにしたがって減っていきます。会社勤めの経費ともいえる同僚との交際費やスーツなどを仕立てる費用もかからなくなっていくでしょう。反対に医療費や介護費などはこれまでよりもかかるようになりがちです。

老後にかからなくなるお金とかかるようになるお金

老後から支出が減る項目の例 老後から支出が増える項目の例
・子どもの養育費、教育費 ・医療費、介護費
・住宅ローン(完済した場合) ・国民健康保険料、後期高齢者医療保険料
・勤務していた会社にかかる費用 ・冠婚葬祭等交際費
・給与にかかっていた社会保険料・税金 ・趣味、娯楽のための費用
など など

老後生活費のシミュレーション

これまで見てきたデータを利用して、具体的に老後の生活費のシミュレーションを行ってみたいと思います。

シミュレーションの条件は以下のとおりとします。

<老後資金の不足額シミュレーションの条件>

  • 夫婦二人世帯、妻は夫より5歳年下
  • 子どもは独立済み
  • 住宅ローンは完済
  • 車を1回買い替える予定(75歳、予算400万円)
  • リフォームを1回する予定(70歳、予算200万円)
  • 男性65歳時平均余命20年(85歳)、女性65歳時平均余命25年(90歳)とする...*
 

*令和2年簡易生命表より、男性20.05年、女性24.91年

<支出の計算>

夫65歳~85歳、妻60歳~80歳までの20年間の生活費=6,781万9,200円
夫と死別後の妻80歳~90歳までの10年間の生活費=1,700万6,760円

合計=6,781万9,200円+1,700万6,760円=8,482万5,960円

夫65歳~85歳、妻60歳~80歳までの20年間の生活費

月額27万929円

 ・うち住宅設備の維持・工事費用として計上されている額:1万739円
…これをリフォーム費用と仮定

・うち自動車購入費用として計上されている額:2,610円
…これを車買い替え費用と仮定

・実際の生活費=27万929円-1万739円-2,610円=25万7,580円

25万7,580円×12ヶ月×20年+200万円+400万円=6,781万9,200円

夫と死別後の妻80歳~90歳までの10年間の生活費

月額15万533円

・これ以後、車を買い替えることもリフォームすることもないとすると
…住宅設備の維持・工事費用として計上されている額:7,505円
…自動車購入費用として計上されている額:不明(二人世帯の半額を計上し、1,305円)

・実際の生活費=15万533円-7,505円-1,305円=14万1,723円

14万1,723円×12ヶ月×10年=1,700万6,760円

<収入の計算>

夫65歳~85歳、妻60歳~80歳までの20年間の収入=6,227万8,560円
夫と死別後の妻80歳~90歳までの10年間の収入=1,518万円

合計=6,227万8,560円+1,518万円=7,745万8,560円

夫65歳~85歳、妻60歳~80歳までの20年間の収入

・23万7,659円×12ヶ月×20年=5,703万8,160円(実収入)
・2万1,835円×12ヶ月×20年=524万400円(個人・企業年金)

合計収入=5,703万8,160円+524万400円=6,227万8,560円

夫と死別後の妻80歳~90歳までの10年間の収入

・12万6,500円×12ヶ月×10年=1,518万円(実収入)
・個人・企業年金は調査結果から金額が定かでないため0とする

合計=6,227万8,560円+1,518万円=7,745万8,560円

老後の生活費がいくらになるかイメージを持つことが重要

シミュレーションをした結果、夫婦二人が65歳時平均余命前後まで生きるとすると、736万7,400円の不足が発生することがわかりました。

平均的な支出の中にはある程度の旅行や娯楽の支出も織り込んでありますが、それでもこれだけの不足が発生することになります。ゆとりある生活を目指すとなるとさらに不足額は増えるでしょう。

この不足分をいかにして賄うかが、老後資金を考える上でのスタート地点となります。

注意したいのは、この結果はあくまで一定の条件で行ったシミュレーションに過ぎず、それぞれの家庭の事情によって不足額は多くも少なくもなります。

支出や収入が平均的だったとしても、リフォームや車の買い替えの費用をどの程度かけるのか、買い替えの回数は何回かによっても大きく異なってきます。

また、このシミュレーションでは月額2万円強の個人年金・企業年金が受け取れる前提になっています。企業年金がない職場であったり、個人年金がない場合であれば、当然不足額はその分、増えることになります。

大切なのは「うちの老後の生活費はどうなの?」と問題意識を持ち、把握しておくことです。

老後に得られる収入はいくら?

ここからは、老後に得られる収入について見ていきましょう。

老後に得られる収入は、夫婦二人世帯であっても単身世帯であっても、平均すると9割方公的年金が占めています。公的年金が老後の生活の柱となっていくことは想像に難くありません。

したがって、老後の生活費の不足を考えるうえで公的年金の受給額をつかむことは避けて通れない道だといえるでしょう。

詳しくは下記リンクに紹介する記事に譲りますが、簡単に公的年金の仕組みを解説しましょう。

公的年金には「国民年金」と「厚生年金」の2種類があり、会社員や公務員など被雇用者は厚生年金と国民年金の双方に、厚生年金加入者に扶養されている配偶者や自営業者、学生等は国民年金に加入します。

将来一定の年齢に達すると、一定の条件を満たせば国民年金から「老齢基礎年金」が、厚生年金からは「老齢厚生年金」が支給される仕組みです。

公的年金の仕組みについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

国民年金と厚生年金の違いとは?公的年金の基礎知識を詳しく解説

老齢基礎年金は保険料納付期間の長さによって、老齢厚生年金は加入期間の長さとその間の平均給与によって計算されます。

以下、ざっくりとした年金受給額の目安を紹介します。なお、以下に紹介する金額はいずれも目安であり、実際の受給額は個人個人によって異なります。

自営業者がもらえる公的年金の金額

自営業者(個人事業主)は国民年金に加入し、原則として保険料を毎月納付します。

国民年金のみに20歳から60歳になるまで加入し保険料をすべて納付した場合、受け取れる年金額は下記のとおりです。

20歳から60歳になるまで国民年金保険料をすべて納付した場合の受取額

老齢基礎年金:年額78万900円(令和3年度)
(月額6万5,075円)

夫婦二人の場合:年額156万1,800円
(月額13万150円)

また、自営業者等(国民年金第1号被保険者)の場合、「付加年金」という上乗せ年金を掛けることができます。

付加年金とは、月額400円の付加保険料を納付すると、納付1回につき年額200円の年金が増額となる制度です。

40年間すべて付加保険料を納付した場合は年金を年額9万6,000円増額させることができます。

<付加保険料と付加年金>

付加保険料:月額400円
付加年金:付加保険料1回納付するごとに年額200円増額
40年間すべて納付した場合:年額9万6,000円増額

老齢基礎年金との合計額:年額87万6,900円(令和3年度)
(月額7万3,075円)

夫婦二人の場合:年額175万3,800円
(月額14万6,150円)

自営業者となる前などに厚生年金に加入したことがある場合は、その分の老齢厚生年金もあわせて受け取れます。

なお、国民年金に未納、未加入期間がある場合は、60歳から65歳になるまで国民年金に「任意加入」できる場合があります。その際に付加年金も活用できます。

会社員などがもらえる公的年金の金額

目安となる年金の受給額は下記のとおりです。

厚生年金に20年以上加入した人の平均受給額(65歳以上)

男性:年額205万5,660円(月額17万1,305円)
女性:年額130万5,756円(月額10万8,813円)

*老齢基礎年金の額を含む

*厚生労働省:厚生年金保険・国民年金事業の概況令和元年度より

ただし、この金額はあくまで統計上の平均であり、古い法律が適用されることにより年金の計算ベースが高い層も含まれているなど、少し高めに出ている可能性があります。

上記の額は20年以上加入した人の平均ですが、実際の受給額はもう少し低めに見積もった方が無難でしょう。

専業主婦(夫)がもらえる公的年金の金額

専業主婦(夫)は、配偶者が厚生年金に加入し、その被扶養者となっていれば原則として国民年金に加入します(第3号被保険者)。

保険料は配偶者が加入する厚生年金全体で負担するので、本人が実際に納付することはありません。

20歳から60歳になるまでの40年間、すべて被扶養者(第3号被保険者)として国民年金に加入した場合、自営業者等の第1号被保険者と同じ受給額となります。

20歳から60歳になるまで被扶養者(第3号被保険者)だった場合の受取額

老齢基礎年金:年額78万900円(令和3年度)
(月額6万5,075円)

第3号被保険者の制度が発足したのは昭和61(1986)年4月ですので、それ以前に扶養されていた期間は国民年金に自動加入することはありません。また、第1号被保険者ではつけられた付加年金は、第3号被保険者にはつけられません。

ただし、厚生年金に加入したことがある場合は、その分の老齢厚生年金もあわせて受け取れます。

公的年金だけではゆとりある老後の生活費は賄えない?

以上、ざっくりとした年金の受給額の目安を見てきました。

仮に上記の受給額だったとして、会社員の夫と専業主婦の妻という組み合わせの夫婦の場合、受給額の合計は以下のようになります。

<会社員の夫と専業主婦の妻の年金額>

夫の年金:月額17万1,305円
妻の年金:月額6万5,075円(満額の場合)
合計額:月額23万6,380円

先に述べた平均の生活費は月額27万929円でしたから、単純計算で不足額は3万4,549円、65歳から90歳になるまでの25年間での不足額は1,000万円超になります。

ただし、以下の点は要注意です。

上記計算の注意点

  • 夫の年金額に少し高めに出ていると思われる数字を使っていること
  • 平均的な生活費を使っていること

先に解説したとおり、ゆとりある老後の生活費として月額約36.1万円が必要とするならば、その不足額は月額約12万5,000円、25年間なら実に約3,750万円が不足することになります。

もちろん、各家庭で支出も違えば年金の加入歴も違うので、必ずこうなるわけではありませんが、多くの家庭で少なからず老後の収入が不足する事態にはなり得ます。

ぜひこの機会に自分や家族の年金額を把握して、あわせて老後の生活費をシミュレーションしておくとよいでしょう。

ちなみに公的年金額は、日本年金機構から誕生月に送付されてくる「ねんきん定期便」や、日本年金機構のWEBサービス「ねんきんネット」で確認・シミュレーションできるので、確認してみてはいかがでしょうか。

公的年金で足りない老後資金を準備する方法は?

ここまで、老後の生活資金は公的年金だけでは不足することが多く、ゆとりある老後を送るにはいささか心もとないことをご説明してきました。

老後の生活資金を準備する方法には、公的年金以外に、退職金や企業年金、貯蓄・資産運用や定年後の就労などがあります。

ここでは、支出を減らし収入を増やすための考え方や手順、老後資金を準備する方法について詳しく紹介します。

支出を減らし、収入を増やす手立てを考える

支出に対して収入が不足するときの基本的な対策法は、「支出を減らすこと」「収入を増やすこと」の2点に尽きます。

支出の見直しには「お金がかからない」というメリットがあります。極端に言えば、生活費を想定される公的年金の受取額以下に抑えられれば、準備する老後資金は必要なくなります。

老後の支出の変化を踏まえ、老後の生活費をシミュレーションしてみましょう。その際ベースになるのはもちろん現在の家計です。家計を見直すことで無駄が見えてくることもあります。無駄にかかっていたお金があぶり出されれば、それを老後資金の準備に充てることもでき一石二鳥です。

なお、老後の生活費をシミュレーションする上で注意したいのは、支出を減らすことばかりに注意が行き過ぎて、実際にその金額で生活すると苦しくなってしまうライフプランを作ってしまうことです。

外食や旅行など生活の潤いになるようなある種の「聖域」を設けたりして、現実的なシミュレーションを行うよう心がけましょう。

定年後も再就職して収入を得られるようにする

収入を得る手段としてオーソドックスな方法は「働いて勤労収入を得る」ことです。

現在は65歳まで勤務延長している人も多く、70歳定年時代を見据えて65歳以降の勤務も可能な企業も増えています。

なるべく長く務めることができればその分老後資金の蓄えに手をつけずに済み、蓄えそのものを増やすこともできる可能性もあります。

下記で紹介する年金の繰下げ受給と組み合わせたり、厚生年金に加入の場合は年金額を多少なりとも増やすことも可能です。

いわゆる通常のフルタイム勤務でなくても、パート勤務やシルバー人材センターなどを活用する働き方でも、勤労収入を得ることができれば生活も楽になり、社会貢献もできます。

どのような形でもなるべく長く働くことは視野に入れておいてよいのではないでしょうか。

老齢年金の繰下げ受給をする

現在の公的年金は65歳からスタートするのが原則です(性別や生年月日などによる「特別支給の老齢厚生年金」は定められた年齢(60歳~64歳)から)。

そんな公的年金の受取開始年齢を後ろ倒しできる「繰下げ受給」という制度があります。本来の支給開始年齢(65歳)から何ヶ月後ろ倒しをしたかによって、年金が増額するのです。

1ヶ月後ろ倒しするごとに0.7%、最大42%年金が増額されます。なお、繰下げ受給をする場合、最低1年は後ろ倒しする必要があります。

老後の年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金の2種類がありますが、同じタイミングでも、それぞれ別の時期から受給を開始することもできます。

繰下げによる受給開始時期と増額率

65歳 66歳 67歳 68歳 69歳 70歳
0ヶ月 100% 108.4% 116.8% 125.2% 133.6% 142%
1ヶ月 109.1% 117.5% 125.9% 134.3%
2ヶ月 109.8% 118.2% 126.6% 135.0%
3ヶ月 110.5% 118.9% 127.3% 135.7
4ヶ月 111.2% 119.6% 128.0 136.4%
5ヶ月 111.9% 120.3% 128.7% 137.1%
6ヶ月 112.6% 121.0% 129.4% 137.8%
7ヶ月 113.3% 121.7% 130.1% 138.5%
8ヶ月 114.0% 122.4% 130.8% 139.2%
9ヶ月 114.7% 123.1% 131.5% 139.9%
10ヶ月 115.4% 123.8% 132.2% 140.6%
11ヶ月 116.1% 124.5% 132.9% 141.3%

*1ヶ月ごとに0.7%増額

ちなみに、令和4(2022)年4月からは、昭和27(1952)年4月2日以後生まれの人を対象に、10年(75歳)まで繰下げができるようになる予定です。なお、増額率自体は変わらないので、10年繰下げ時の増額率は84%となる見込みです。

具体的な例を挙げて計算すると以下のようになります。

5年繰下げ受給した場合の受給額の違い

夫の年金:年額180万円(月額15万円)
妻の年金:年額96万円(月額8万円)
合計:年額276万円(月額23万円)

■二人ともすべての年金を5年繰下げすると…
夫の年金:年額180万円×142%=255.6万円(月額21.3万円)
妻の年金:年額96万円××142%=136.3万円(月額11.3万円)
合計:年額391.9万円(月額32.6万円)

なるべく勤続年数を延長して年金を繰下げし、公的年金を充実させるのも一つの方法です。

通常どおりの受け取り方だと夫婦合わせても平均の生活費に足りない状況ですが、夫婦で5年繰下げすればかなりゆとりが出てきます。

繰下げ受給のメリットは、何といっても追加保険料を払うことなく年金を増額させることができ、増額は一生涯続くことです。

ただし、繰下げ受給はバラ色の制度ではありません。以下のような注意点があります。

繰下げ受給する際に注意しておきたいポイント

  • 年金をもらえない期間ができるため、その間の収入をどうするかの対策が必要
  • 年金をもらえない期間分を増額分で取り戻すため、受け始めてから最低でも約12年は長生きしないと損が発生する
  • 加算部分が受け取れなくなるケースがある
  • 課税対象となる場合、税金や保険料などが増えてしまう

繰下げ受給を待っている間は公的年金がありませんから、勤労収入を得たり、受取期間限定の個人年金保険に加入するなどの対策が必要です。

個人年金保険に加入する

個人年金保険に加入するのも一つの選択肢です。

個人年金保険は生命保険会社が取り扱っており、決められた保険料を払い込むと、決められた年齢から個人年金が受け取れる保険です。各社ともさまざまな商品を取りそろえており、ニーズに合った商品を選ぶことができます。

商品は生保各社さまざまなものがありますが、下記にその種類を紹介します。

個人年金保険の種類

年金を受け取れる期間による分類

  • 終身年金
    亡くなるまで受け取れる。生涯にわたる生活費の不足に備えられる。
  • 確定年金
    決められた期間受け取れる。受給者が死亡しても決められた期間は遺族が受け取れる。死亡保障を兼ねられる。
  • 有期年金
    決められた期間受け取れる。受給者が死亡すると個人年金の受け取りは終了。リーズナブルな保険料で備えられる商品が多い

契約時に受給額が確定するかどうかによる分類

  • 定額年金
    契約時に払い込む保険料と受け取れる年金が確定するので、将来の見込みが立てやすい
  • 変額年金
    払い込んだ保険料の運用成果によって年金額が決まるので、年金額は受取開始までわからないが、運用実績次第では払い込んだ保険料以上の年金が期待できる

このほかにも、保険料の払い込みの通貨を円にするのか外貨にするのかを選択できる商品や、個人年金の受け取る際もどの通貨にするか選べる商品などがあります。

iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)に加入する

iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)とは、任意に加入できる確定拠出年金の制度です。

拠出した掛け金について、自分で運用を行って資産を作り、年金として受け取れます(一時金での受け取りも可)。

iDeCoに加入する際は取り扱っている金融機関(運営管理機関)に申し込みます。

iDeCoのメリットは以下が挙げられます。

iDeCoのメリット

  • 拠出する掛け金は全額所得控除が受けられ、運用の収益は非課税となる
  • 受け取りの際も税制優遇が受けられる
  • 自分で運用を行うため、リスクを取ってリターンを狙う積極運用もできれば、確実に資産を貯めていく安定運用もできる
  • 転職などの際は積み立てた資産を持ち運べる(ポータビリティ)

iDeCoに加入できる人は原則として次のとおりです。加入者の公的年金の加入状況によって拠出額の上限が決められています。

iDeCoに加入できる人(原則)とその拠出上限額

国民年金の加入状況 加入者 拠出限度額
第1号被保険者 自営業者等 月6.8万円(年81.6万円)
第2号被保険者 企業型確定拠出年金がある会社員(条件あり) 月2万円(年24万円)
確定給付企業年金がある会社員 月1.2万円(年14.4万円)
公務員
企業年金制度がない会社員 月2.3万円(年27.6万円)
第3号被保険者 専業主婦(夫)

掛け金は最低で毎月5,000円以上で1,000円単位で自由に設定できます。

iDeCoの運用資産の受け取りは、加入期間等に応じて60歳から65歳の間で定められており、60歳から受け取るためには10年以上の加入期間等が必要です。

DeCoの運用資産の受け取り方には、以下の3つの選択肢があります。

  1. 年金として受け取る
  2. 一時金として受け取る
  3. 年金と一時金を組み合わせて受け取る

年金として受け取る場合は原則として5年以上20年以下の有期年金として、金融機関が定めた方法で受け取りますが、金融機関によっては終身年金を取り扱っている場合もあります。

iDeCoのデメリットとしては、運用次第では元本割れが発生する場合があること、原則60歳まで引き出しができないことが挙げられます。

平成29(2017)年の法改正で第3号被保険者などにも加入の門戸が広がりました。第3号被保険者は公的年金やそれに準ずる上乗せ年金の制度がなかったので、iDeCoはその数少ない選択肢として有効といえます。

NISAを利用する

「NISA(ニーサ)」とは、少額投資非課税制度のことで、毎年の非課税枠までの投資について、譲渡所得や配当所得が非課税となる制度です。

現時点ではNISAは以下の3つの制度から成り立っています。

<NISAの種類と概要>

一般NISA つみたてNISA ジュニアNISA
対象年齢 20歳以上 19歳以下
年間非課税枠 120万円(5年間で最大600万円) 40万円(20年間で最大800万円 80万円(5年間で最大400万円)
運用商品 株式、投資信託、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)など 長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託・ETF 株式、投資信託、ETF、REITなど
投資方法 任意の金額、タイミング(積立含む) 積立購入のみ 任意の金額、タイミング(積立含む)
投資可能期間 2014年~2023年 2018年~2037年 2016年~2023年
非課税期間 最長5年間 最長20年間 最長5年間
払出制限 なし 18歳年度の12月31日までは制限あり
運用口座の管理 本人 親権者等が代理

*一般NISAとつみたてNISAは同一年での併用不可

非課税となる対象は株式や投資信託の譲渡益や配当ですから、値動きのリスクがあります。毎月定額を投資する方法なら、値動きリスクを抑えながら投資が可能です(ドル・コスト平均法)。

長期間の積立投資で老後資金を形成する目的なら、20年間の非課税枠がある「つみたてNISA」は魅力的です(一般NISAでも積立購入は可)。

一般NISAとジュニアNISAはあと2年で制度運用の終了時期を迎えるため、制度の改正が予定されています。

以下に改正後の制度を簡単にご紹介します。

<新NISA制度の概要>

新一般NISA つみたてNISA
年間非課税枠 2階:102万円
1階:20万円 *1
40万円
運用商品 2階:株式、投資信託
1階およびつみたてNISA
長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託
投資方法 2階:任意の金額、タイミング(積立含む)
1階およびつみたてNISA(積立購入のみ)
口座開設期間 2024年~2028年 2018年~2042年(5年延長)

*...ジュニアNISAは2023年末で終了

*1...原則として1階の投資をした人が2階の枠を利用可

この記事のまとめ

以上解説してきたように、定年後は年金で悠々自適、というのはすでに過去のものとなってしまったようです。

そんな中で、老後を経済的な不安なく過ごすためには、老後の収入と支出をシミュレーションして、どのくらい足りなくなるのかを知っておく必要があります。

公的年金は老後の生活を支える柱です。なるべく充実させておくよう努めるとともに、不足分については少しずつ対策を始めていく必要があります。

特に積立を行う方法で資産を充実させる場合、早く始めれば無理なくそれなりの額を確保できます。安定した老後を楽しく過ごすため、検討してみてはいかがでしょうか。

監修者 監修者

綱川 揚佐

社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士

綱川 揚佐

地域金融機関に勤務した後、社会保険労務士、年金アドバイザーなどの資格を取得し、年金記録確認第三者委員会に勤務。その後社会保険労務士事務所を開業し、法人向けの労働相談、就業規則作成などの業務に携わる傍ら、年金事務所や地方銀行の年金相談員として活動し、多数の年金相談を受けている。

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