飲食店に保険は必要?補償の種類別にみる注意点とメリットを紹介
更新日:23.01.10
カフェや仕出し・弁当店、スナックなどの飲食店を経営していると、営業に深刻なダメージを与えるトラブルが発生することも決して珍しくはありません。
よくあるケースで非常に恐ろしいのが、ノロウイルスなどの食中毒が発生する衛生面のトラブル。それ以外にも火災による設備・什器(じゅうき)の焼失や、お客様に怪我を負わせてしまう事故の発生など、予想外のアクシデントが経営を圧迫するリスクは常に付きまとうものです。
よって、飲食店を経営するなら保険への加入が欠かせません。この記事では、飲食店経営者が気になる保険加入のメリットや注意点、保険の選び方などを解説します。
飲食店や食品業は何が大変?経営で考えられるリスク
飲食店や食品業の事業を経営する上で、発生する可能性が高いリスクについて確認しておきましょう。冒頭でも述べたとおり、何といっても飲食店にとって致命傷になりうるのが食中毒発生のリスクです。
厚生労働省のデータによれば、2019年度だけでも1000件を超える食中毒が発生していて、発生場所の多くを飲食店が占めています。(※1)
店側に過失があって食中毒が起きた場合は、賠償責任が発生します。食中毒の恐ろしいところは、場合によって一度に多くの被害が出るだけではなく、重症化や死亡事故につながる恐れもあることです。賠償金が驚くほど高額になった事例も少なくありません。
その他にも、身近なリスクとして火災などが挙げられます。「自分の店は火の始末を徹底しているから大丈夫」と思っていても、隣のお店で火災が発生して燃え移る可能性もゼロではありません。また、従業員が業務が理由で怪我を負ったり、病気になってしまったりするリスクもあります。
飲食店に必要な保険ってどんなもの?
先ほど挙げた数多くのリスクから経営者を守ってくれるのが保険です。ここでは飲食店経営をするなら加入が欠かせない保険について紹介します。
火災や地震などの災害に備えた保険
まず一つ目は、災害時の補償を受けられる保険。飲食店の業務に必要となる備品には高額なものも多くあります。例えば業務用冷蔵庫、厨房設備、アンティーク家具類などです。
これらが焼失したり破損したりして使えなくなった場合、備品一式をそろえ直すにはかなりの費用がかかり、経営的にもダメージが大きいでしょう。そんな時、火災保険や地震保険に加入していると補償によって損害を抑えることができるので、経営者にとっては必須の保険といえます。
食中毒事故などの損害を補償できるPL保険
二つ目は、先ほどから述べている食中毒事故の損害も補償されるPL保険(生産物賠償責任保険)です。この保険に加入すると、飲食店業務で発生しがちなさまざまなトラブルによる損害を広く補償してもらうことができます。
例えば「店で作ったシチューが腐敗していた」「豚肉の加熱が不十分だった」などの理由から、お客様が食中毒を起こしてしまったというケースが補償範囲に含まれます。
また、「テイクアウトで販売した弁当にガラス片が混入し、お客様の口内を傷つけてしまった」といった、異物混入事故が起きた場合でも補償を受けられます。
比較的どんな損害の場合にも高い対応力のある保険だといえます。コストパフォーマンスが優れているのでおすすめです。
店舗にとって心強い施設賠償責任保険
次は、事業用の賃貸物件の所有者または管理者が加入できる施設賠償責任保険。業務中に起きたトラブルによってお客様・周辺住民・通行人などに被害がおよび、損害賠償の責任が生じた場合に役立つ保険です。
一例を挙げるなら「飲み物を席まで運ぶ際、誤ってお客様の衣服にこぼしてしまい、クリーニング代を請求された」というケースが補償範囲に含まれます。
似たような保険に個人賠償責任保険や借家人賠償責任保険などもありますが、施設賠償責任保険の場合は事業者用の商品です。施設賠償責任保険の方が、より広い範囲で手厚い補償を受けられます。
予想外の休業に備えた店舗休業保険
最後に紹介するのは店舗休業保険です。名前のとおり、災害などによってお店を一定期間閉めざるを得ず、収入が著しく減った場合に補償してくれる保険になります。
注意すべきなのは補償範囲で、故意にお店を閉めた場合は当然補償されませんし、お店側の重大な過失が原因で休業に追い込まれた場合も補償対象になりません。あくまでも予想外のアクシデントによる休業が対象ですので、よく確認しておきましょう。
飲食店が保険に入っておくメリット
飲食店が保険に入るメリットは、トラブルが起きたときの損害をなるべく最小限に食い止めることができる点につきます。
世の中には、注意していても防ぎようのない災害のようなアクシデントもあります。食中毒事故も「十分な加熱処理を徹底しておけば防げる」という簡単なものではなく、乾燥したのりからノロウイルスが検出されるケースも発生しています。日頃から注意を徹底していても、絶対に発生しないとは限らないのです。(※1)
万が一の事態に備えて保険に加入しておけば、実際にトラブルが起きても冷静に対処できるでしょう。
飲食店が保険に入る際の注意点
ここまで紹介してきたように、飲食店を経営する場合、運営中に想定されるリスクに備えられる保険への加入は重要です。しかし、保険に入っていればどんなトラブルでも補償されるというわけではなく、カバーしきれない場合もあります。
では、実際にはどのようなケースが補償の対象外になるのでしょうか。具体的な事例をいくつか見ていきましょう。
事例①:故意や重大な過失による事故は対象外
故意に発生させた事故や、重大な過失によって引き起こされたトラブルなどは補償対象外となります。
例えば「店側がわざと傷んだ食材を使った料理を提供し、食中毒が発生した」「スタッフが車の運転を誤って店舗に突っ込み、休業した」「誤って冷蔵庫の電源を切ってしまい、中の食材が傷んだため休業した」といった場合は、補償を受けられない可能性が高いでしょう。
「法令に違反した不当表示や虚偽表示があり、そのことによりお客様に損害が発生した」など法令違反がある場合も、補償の対象外となります。「商品の成分表示が誤っており、気付かないうちに法令違反をしていた」というケースも考えられますので、万が一に備えるためにも十分な注意が必要です。
事例②:免責金額や支払限度額が設定されていることも
契約内容によっては免責金額や支払限度額が設定されており、自己負担金が必要になることもあります。
例えば、1事故に対する免責金額が10万円の場合、対象となる損害のうち10万円までは飲食店が自ら負担しなければなりません。また、支払限度額が5,000万円の場合は損害額が5,000万円を超えた分に関しては自己負担となります。
免責金額を高く、支払限度額を低く設定すると月々支払う保険料は安くなりますが、いざという時の補償が少なくなってしまいます。保険を契約する際には、補償を手厚くしたいのか、保険料を安く抑えておきたいのかを考えよく検討して、自店に合ったプランで契約しましょう。
飲食店の保険見直しをおすすめしたいタイミング
お店をオープンするときに契約した保険をそのままにしていませんか? 飲食店を運営する上で考えられるリスクは一定ではありません。適切な保険料でよりよい補償が受けられるよう、店舗を取り巻く状況に合わせて保険を見直しましょう。
近隣で火災や地震などの災害が起きたことをきっかけに、保険を見直す方も多くいます。そのほかにも、下記のようなタイミングを参考で契約内容を確認して、よりよいプランがないか検討することをおすすめします。
保険見直しのおすすめタイミング
- 新店舗を増やすとき
- 店舗を改装するとき
- 従業員を増員するとき
- 年度が替わるタイミング
- 保険料が高いと感じたとき
- 保険の更新時期
近年では、感染症のパンデミックや集中豪雨など、想定外の事態によって休業に追い込まれるケースも増えています。営業再開まで長期間を要する可能性も考えられます。こうしたリスクに備えられるよう、こまめに保険を見直しておきましょう。
飲食店における保険の選び方の基準は?
最後に、飲食店経営者向けの保険商品の選び方のポイントを紹介します。実際に保険の加入を検討する段階になると、さまざまな会社がたくさんの保険商品を扱っているので、どれを選んだらいいのかわからなくなってしまう方も多いようです。
ここまでに紹介してきたように、災害の補償をしてもらえる火災・地震保険や、食中毒事故のときに頼りになるPL保険など、もしもを考えると入っておきたい保険は山ほどあります。しかし、出費もできる限り最小限に抑えたいのが現実でしょう。
そんな時におすすめしたいのが、店舗総合保険です。これはさまざまな保険が一体になっていて、災害はもちろん、食中毒の損害賠償まで対応できる商品もあります。補償されるおもな損害の例は次のとおりです。
補償されるおもな損害の例
- 建物、設備、什器(じゅうき)等の損害
- 火事、地震、台風、大雪、落雷などによる損害
- 盗難による損傷、または汚損
- 店舗をやむを得ない理由で休業した時の損害
注意したいのは、補償範囲や保険金に関しては商品によって違いがある点です。必ず複数の会社の商品を比較検討して決めましょう。
もう一つ気を付けたいのは、特約(オプション)の選択。主契約だけでも有効ですが、特約をプラスすれば補償内容を一層充実させられます。
商品ごとに内容や名称に違いがありますが、特におすすめが施設賠償責任保険特約。お客様に怪我をさせてしまったり、お客様のものを汚損してしまったりした場合の補償が充実するので、もしものときにより心強く感じられるはずです。
※1 【厚生労働省】食中毒統計資料まとめ
飲食店の経営にはさまざまなリスクが存在しているため、どれだけ気を付けていても完全にはトラブルを避けられないでしょう。食中毒や自然災害などが発生すると、深刻な経済的ダメージを負ってしまうこともあります。だからこそ保険をうまく活用して、万が一のリスクに備える必要があります。
ただし、保険はすべてのトラブルを補償してくれるわけではありません。契約の際は補償内容とともに、補償の対象外になるケースについても確認しておくとよいでしょう。
飲食店の経営の中で事故やトラブルを起こさないためには、日々の予防対策が重要です。店舗に潜んでいるリスクを見直し、食品管理の徹底はもちろん、売り場環境の向上やスタッフへの教育など適切な対策を行いましょう。